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【ネタバレあり】映画「凶悪」で見た、狂気に変わっていく“正義”

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

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個人的評価:★★★☆☆

映画「凶悪」を観た。新宿のような人気の映画館だと予約の段階でほとんどの席が埋まっていくのに、今回初めて行ってきたこじんまりとした映画館は上映ぎりぎりに駆け込んでも席が選びたい放題でかなり快適だった。飲み物や食べ物は缶ジュース、スナックなどの簡単なものだけど、単価が安いので気軽に映画を見る環境としては混雑とした都心より余程良いと思った。あと、シアター入口付近に上映作品のスタッフ・キャストインタビューの切り抜き(パンフレット?)などもあり、映画鑑賞後にこういうものを読める環境があるのはとてもイイ。どんな思いでこの作品を作り、演じていたのかということを後から知ることで、鑑賞後もしばらくあれこれ考えて楽しめるからだ。

 

肝心の映画の内容はと言うと、タイトル通りの極悪人たちが狂ったような凶悪ぷりを発揮していた。新潮文庫のノンフィクション小説が原作らしいが、ピエール瀧演じる死刑囚須藤や、リリー・フランキー演じる事件の首謀者木村たちがあまりに愉快そうに人を暴行し、殺していく様子などは狂気そのもの。映画の脚色は多分にあるとは思うが、複数の人間を殺していたのは事実だ。

 

しかし、最も狂気に満ちていたのは、山田孝之演じる主人公のスクープ雑誌記者藤井だった。上司の命令を無視して事件の取材にのめり込む藤井は、こんな凄惨な事件の犯人は生きていけはいけないと激昂する場面すらあり、映画の進行とともに事件への傾倒具合もどんどん大きくなっていく。自分の中の"正義"を信じ、日常業務をすっぽかし、家庭生活が壊れていくのもお構いなしになっていく姿は正直に狂っている。まさに、正義が狂気に変わるさまをまざまざと見せられているようで、押し付けられる正義感ほどタチの悪いものはないなと思った。

 

ストーリー展開は、前半は拘置所の取材パート/藤井の探索パート/家庭・会社パートに分かれて時系列順に淡々と進んでいくシンプルなもの。後半以降は過去に戻り、これまでたどってきた事件の断片の一部始終を1つ1つ再現していく、いわゆる解答編のようなパートだ。手頃な老人たちを見つけては生命保険をかけて殺していくという常軌を逸した事件で、暴力描写が苦手だとしんどいところがある。監督も意識して凶悪なシーンを取り入れていて、濡れ場のシーンに子供を置いてみたり、認知症の母が嫁を叩いたり、96度の酒を飲ませてスタンガンで老人を殺したりと、細かい凶悪が紛れ込んでいる。

 

山田孝之は個人的に好きな役者で、いつも各作品のキャラがそこに存在しているかのように感じることができる。今回も、山田ではなく終始藤井のみがそこに存在していて、異常なまでに事件に執着していた。この作品は3週間という短い期間で濃い撮影を行ったそうで、山田自身も「長期の撮影だったらおかしくなっていたかもしれない」と言っていた。鑑賞しているだけでもブルーな気分になるので、演じている側はそれはもう過酷な精神状態だったと思う。映画のラストは、「え、ここで終わり?」というような終わり方で、突然の終了に後味も一層悪くなった。

 

猟奇的殺人とか、シリアルキラーとかいう言葉を聞くと、その非日常性に誰もがちょっとした楽しみを見出してしまう異常性を持ってしまうのではないか。だからこそ、エンターテインメントとして小説や映画などにこの手の作品は数多く見られる。妻に「こんなおかしな事件を取材して、心のどこかで楽しんでるんでしょ」と本心を突かれてしまった藤井が、激昂して声を荒げる場面がある。事件のことなど家庭では話していないのに、雑誌を読んだ妻に本当のことを見抜かれ、藤井は激しく動揺したのだろう。物静かであまり感情の振れ幅のない藤井は、信念が強く、頑固そうな男という印象だった。自分の信念、正義感にケチをつけられれば、真っ向から批判しないと収まりがつかないのだろう。

 

映画の最後は、首謀者木村に拘置所で「俺を本当に殺したいと思ってるのは、被害者でも、須藤でもない」と言われ、指をさされる藤井。それも本質をついている。ではなぜ、一記者にすぎない藤井は木村を殺したいとまで思うのか。正直映画にする上で藤井の動機付けの部分が無理矢理に感じるところがあったが、それも狂気・凶悪の一部と解釈すれば良いのだろう。人のスキャンダルや不幸をネタにして食い物にするスクープ雑誌の記者、というのは確かに異常ではある。つまるところ、狂気を帯びない人間などいないとは思うが。誰でも、どこかが狂っているものだ、と私は感じている。

 

後味は悪いが、作品自体は面白くないということはなかった。この手の映画を大きい映画館でも見れるというのは、ある意味画期的だなと。「ひぐらしのなく頃に」の作者である竜騎士07氏は、「最近のネットは、同調の空気があって個人が自分の意見を言わなくなった。作品の面白い/面白くない、も批判が怖くて自分の意見を言えない。発売前作品にいたっては、不安論、身構え論などであふれていて理解に苦しむ

といった趣旨の発言をしていた。予防接種に並ぶ子供のように、最初に期待を下げておくことであとでがっかりしないように抗体をつけておく傾向にあるらしい。ネットだと揚げ足を取られたり、あとで言質を取られたりして面倒くさいというのはよく分かる。そういう意味で、この映画は誤解を恐れずに自分の意見を述べるなら、人間のおかしさ(狂気という意味でも)をうまく表現したという意味で、面白い。前半はやや退屈に思えるが、過去に巻き戻ってからはモブキャラたちが良い味を出していく。家族の生活を守るために自分の夫をやくざに差し出す老婆、木村から人を殺して手に入れた札束をもらう須藤の妻など、まぁひどい世界ばかり見せられる。他にどんな感想を持つものなのだろうか、と気になる今日このごろ。